


皆さんは普段ある時のスピードを意識したことはありますか?

確かに街を歩いていると、颯爽と駆け抜けるように歩く人や、スマホ片手にゆっくり歩く人など、三者三様ですよね。
健康に運動が良いことは、皆さんも耳にタコができるほど聞いていることと思います。
特に会社の健診などで肥満や血糖高値、高血圧、LDLコレステロール・中性脂肪高値などを指摘されると、
あまりに数字が悪い結果の際には、すぐに医療機関での精査を指示されることもありますが、
多くの場合は運動などの生活習慣の改善を求められますよね。
ちなみに会社の定期健康診断で何らかの異常を認めた方のことを「有所見者」と呼びますが、
その割合をご存知でしょうか?
平成30年度定期診断結果 有所見率:55.5%
何と半分以上の方が何らかの異常を指摘されているということです。
話は戻りますが、「運動しましょう!」と言われたことのある人は多いのではないでしょうか?
そして「運動しなくちゃいけないのは理解しているのだけれども…」と口にして、結局何もせず…。
多くの方が心当たりのあるエピソードですよね?

皆さんが運動を習慣にするのは難しいことはよく分かります!
そこで今日はそのような皆さんに、お手軽な運動として、意識して早くあることを提案をしたいと思います!

ここではその医学的根拠まで解説しようと思います。

オススメの記事の読み方をご紹介しています。
未読の方はぜひご覧になってみて下さい!
健康習慣として「ウォーキング」をご提案します。早歩きと寿命に関する医学論文を引用して、その医学的根拠をご紹介します。またこの記事では、「多変量解析」という医学論文で頻繁に用いられる解析手法を簡単に解説します。他の記事を読むときにも役立つ知識ですので、ぜひご期待ください!
歩行速度と死亡の関係について
歩くのが遅いと寿命が短い!?

簡単に表現すると「専門家によるお墨付きあり」ということです。
なおこのブログでご紹介している医学関連の参考文献は、基本的に査読付き論文ですよ。
The analyses to follow are restricted to the 7423 men and 31,655 women who had complete data on BMI and walking pace, and whose deaths did not occur within one year of their baseline survey (97 deaths were excluded).
The National Death Index identified 1968 deaths during the average 9.4-year mortality surveillance.
Our 9.4-year follow-up of the National Walkers’ Health Study shows that a slower walking pace was significantly related to greater all-cause mortality, and mortality due to CVD, diabetes, nervous system diseases, and dementia.

大規模疫学研究から得られたこの結果で、その内容のインパクトも大きいですね!
結果の詳細
Figure 1 shows that a slower walking pace was significantly associated with greater risk for total (i.e., all cause) age- adjusted mortality in both males and females, with the association due primarily to greater mortality in the slowest (4th) pace quartile.
「歩行速度が遅いことは男性および女性の両方にとって、有意に年齢調整をした死亡率の上昇リスクと関連しており、特にこの関連は、歩く速度が最も遅い人の死亡率の高さによるものであったということを図1は示している」ということです。


最も早い人と比較して、死亡リスクが高いということですね!



今日の帰りから早歩きを心がけましょう!
「多変量データ解析」「補正」について
ではここから先は、統計に関する内容になります。

他の記事を読むときにも必ず役立つ知識です!
先ほどの論文の図で、黒色と灰色と白色に色分けされていましたね。
これは死亡のリスクを計算する際に、「補正」した項目の違いになります。
この「補正」という手法は、医学論文などの学術誌に頻繁に登場します。
そして「補正」をするためには「多変量データ解析」という統計解析が必要です。
初学者には難解なイメージで、馴染みのない言葉ばかりですが、
論文の内容を少しでも理解するために、知っておいて損はありません。

説明変数と目的変数
補正や多変量解析の話を進める前に、より単純な具体例から考えていきましょう!
今回の論文は、シンプルに考えると、下記の関係を明らかにすることでした。
「歩く速さと寿命の関係」はどうなっているか知りたい!というのが疑問です。
少し表現を変えると、「歩行速度で死亡のリスクを予測できるか?」という問いの答えを見つけたいということですね。
これから疑問の段階ですので、矢印は点線で表現しています。
ここで次の用語を覚えましょう!
目的変数:予測を行いたい変数
回帰:一方から他方を予測すること
相関:両者の関連を評価すること

次は説明変数の数を増やしてみましょう!
「補正」の必要性!
「ご高齢になるほど寿命が短くなる」のは当然ですよね。
また若い方と比較して、ご高齢の方では、心疾患などの基礎疾患がある方の頻度が上がります。例えば「肺炎」に罹患した場合に、基礎疾患がある方が、重症化してしまい、致死率が上がります。また「がん」などの疾患に罹患する確率があがります。
では次の質問です。
「ご高齢になるほど、歩く速さが遅くなる」ことは想像できますね。

「歩く速さ」と「死亡率」の関係に「年齢」が影響を与えることがお分かりいただけたと思います。
図示すると下のようなイメージです。
このように、調べたい変数の両方に関連する要因の影響をできるだけ取り除く必要がありますよね?

データ収集をして統計解析したところ「歩行速度が遅い人ほど死亡率が統計学的有意に高い」という結果が得られたとします。
解析者としては満足ですよね。得られた結果を世の中に発信したくてウズウズしています!
ただ「年齢」の影響は考慮していない結果です。
本当に結果の通りに信用しても大丈夫でしょうか?




考慮してあげることの大切さが分かりました!

「補正」の方法は?「多変量データ解析」の登場!

ただ残念ながらイメージが湧きません…


そして、説明変数に補正したい要因を入れれば良いのですね!
ということは、「年齢」以外にも補正したい項目を追加しても大丈夫なのですか?




多変量データ解析らしくなってきました!

多変量データ解析の解釈方法
ここまでの簡単な復習です。
・「補正」を行うのに必要な統計解析が「多変量データ解析」である。
ではこの多変量解析をみたときの簡単な解釈の方法を学びましょう!
では「年齢」の補正が必要な理由をもう一度考えてみましょう!
「年齢が高いほど、歩行速度は遅くなるし、死亡リスクも高くなる」つまり「説明変数にも目的変数にも年齢が影響する」ことが問題であり、そのために補正を行うのでした。

「同じ年齢の方々のみ対象にした場合に、歩行速度が遅いほど寿命が短い」という結果が得られたとします。この場合、得られた結果の信用度はどうですか?


補正するというのは、その項目については、条件が統一されていると考えます。補正した項目以外の要因同士の関連を見ている時は、その関連に補正した項目は影響しないという前提を、多変量データ解析として計算してくれます。
学んだことを生かして論文の図を再確認!
・「補正」を行うのに必要な統計解析が「多変量データ解析」である。
・注目している説明変数と目的変数の関係を見る際、「補正」した要因は条件を同一になるよう計算処理されている。つまり「補正」した要因は、他の説明変数や目的変数に影響しないと考えなくてよい。


この補正が意味するところは、それぞれのグループの比較の際に、「各グループの年齢は同じ、教育歴も同じ、喫煙歴も同じ、普段の飲酒量も同じ、肉やフルールの摂取量も同じ、アスピリンの服用も同じ、心臓発作の既往も同じ」という条件の下、歩行速度と死亡リスクはどうなっているのかを検討した結果ということですね!
(目的変数が連続変数で、説明変数にカテゴリー変数が入る場合には、共分散分析を用います)
・ロジスティック回帰分析:目的変数がカテゴリー変数の場合に使用
・Cox比例ハザードモデル:ロジスティック回帰分析+時間の概念
Hazard ratios (HR) from Cox proportional hazard analyses were used (後略)
まとめ
・「歩く速さが早い方は寿命が長い!」という医学論文をご紹介。
・研究結果に影響を及ぼす要因を「補正」する目的は、統計解析を得られた結果を少しでも「真実」に近づけるため!
・論文中に「補正」が登場したら、その要因の数学的に考慮されていると考えましょう!




